手頃な価格帯でトレンドアイテムが手に入ると、幅広い年齢層から支持を得ている「ファストファッションブランド」。実際にその洋服が、どのように作られているか考えたことはありますか?

環境面はもちろんのこと、その洋服を作り出すために関わる人の労働問題などが問題視され、ファストファッションブランドもサステナブルなプロジェクトを多く行っています。けれどそもそも問題視されているのは、“ファストファッションだけ”なのでしょうか――。

そこで本記事では、サステナブル・プロモーターとして活動する根本亜希子さんに、ファストファッションがなぜ問題視されているのか、そして私たちが今後どのようにファッションと向き合っていくべきなのかを聞いてみました。


【INDEX】


ファストファッションとは?

ファストファッションと聞くと、トレンドの洋服や小物が安く手に入るものというイメージが強いはず。ファストファッションは、なぜこんなにも身近なものになったのでしょうか?

「トレンドセッターであるラグジュアリーブランドは、企画がスタートしてから商品が出来上がるまでに長い時間を要します。そのため、コレクションで話題になったトレンドアイテムを、消費者がいち早く手に取れるようにするという目的で『ファストファッション』が生まれました」

「すぐに消費者のニーズに合わせて商品を生産し、かつ量も増やして安く売るという形態になっています」

ファストファッションが問題視されている理由

トレンドアイテムが低価格で買えることから、ファンも多いファストファッション。けれど近年では、そのビジネスモデルが環境や労働問題の面でも問題視されているのが事実。一方で、ファッションを楽しみたいけれど経済的に高価な洋服を手に取るのが難しいという人も。

「“ファストファッション=悪いもの”とは捉えづらく、一概に否定はできません。だからといって、生産し続けるのは違うのではないかと考えています」と根本さん。実際にどのような点が問題視されているのか、詳しく解説してもらいました。

使用している生地

根本さんによると、環境に良くないと言われている素材は以下のもの。

  • 従来のコットン
  • ポリエステル、アクリル、ナイロンなどの主に石油などを原料として生成される合成繊維

従来のコットン

基本的にコットンは、従来のコットンとオーガニックコットンに分けられており、従来のコットンの生産は環境にも大きな影響を及ぼしているよう。

「従来のコットンを生産するためには、1キロ当たり1~2万リットルの水が必要と言われています。一方でオーガニックコットンであれば、従来のコットンに使われる水の量の約10分の1で生産が可能です」

また従来のコットンを生産するために、年間800万トンの合成肥料と20万トンの農薬が使用されているとのこと。そしてその農薬が原因で、人間や動物たちの体に悪影響をもたらしているのも事実。

合成繊維

ポリエステル、アクリル、ナイロンといった主に石油などを原料として生成される合成繊維を着続けると、肌からストレスを受けてしまうことも。

そしてこれらの素材を使った洋服は、洗濯をするたびにマイクロプラスチックが流れ出ているそう。

「関東の海の調査などにも参加しているのですが、海水の中には必ず化学繊維が入っています。世界で推測されているデータによると、海に出ているマイクロプラスチックの20~35%は洗濯から出たものと言われているのが現実です」

「洋服にはポリエステルもよく使われていますが、仮に何度も着用しても、洗うたびにマイクロプラスチックが海へと流れていきます。そこを深く掘っていくと、素材の選び方も考えるべき点なのではないかと思います」
laundry room
gerenme//Getty Images

また植物が原料であるセルロースからできているレーヨンも環境にいいと思えるけれど、実際には絶滅危惧種の動物たちがいる国の森林を伐採して作られており、環境問題に大きく影響しているんだとか。

オーガニックコットンやオーガニックヘンプなど、環境に配慮した生地を選ぶのが大事な一歩と言えそう。

労働環境の問題

度々話題に上がるのが、ファストファッションの労働環境の問題。実は、2013年に起きた「ラナ・プラザの崩落事故」によって多くの人が関心を持ったという。

ラナ・プラザ崩落事故とは…

ファッション史上最悪の事故とも呼ばれている「ラナ・プラザ崩落事故」。バングラディシュの首都の有力者の権限により、以前から耐震性を無視した違法な増築を繰り返していたことで、朝のラッシュアワーの間にビルが倒壊。死者1,127人、行方不明者500人、負傷者2500人にものぼる犠牲者を出すことに。

「あれから状況は変わってきているとは思いますが、現在でも子どもや女性が悪質な労働環境の中、縫製工場で働かなければならないという状況が事実としてあります。一番の問題は、日本を含める多くの企業がその現状を公表してこなかったこと。だからこそ、消費者もその状況を知ることができないのです」

サステナブルなブランドか見極める方法とは?

SDGsという言葉をよく耳にするようになった昨今、“サステナブル”はさまざまな面で注目される重要なキーワードに。けれど実際にそのブランドがサステナブルなのかは、正直分からないことも…。

サステナブルなブランドであることを確かめるためには、どのような点に着目したらいいのでしょうか?

グリーンウォッシュを見抜く力を身に着ける

「まずはグリーンウォッシュを見抜く力をつけるといいです」と根本さん。上辺だけ、また見せかけだけでエコであると思わせることを意味するグリーンウォッシュを見抜くには、はじめにブランドのホームページを確認するのがいいとのこと。

「『こんな活動や支援をしています』というアピールが強くあっても、実際に工場でどのぐらいのエネルギーが使われているかを明かしていない企業がほとんどです」

「目標を立てていることは多いですが、途中経過を明かしている企業はほぼありません。またサステナビリティレポートを出している企業も増えてきましたが、そのレポートの中に成果を含め、ちゃんとした数字を記載しているブランドは少ないのが現状なのです。実際にどのような活動をしているのか、そしてその成果が記載されているか確認してみましょう」
clothes shop costume dress fashion store style concept
Natee Meepian//Getty Images

さらに、「直接お店の人に聞いてみるのもいいかもしれません」と根本さん。

「もしかしたら、お店の方は答えることができないかもしれません。でもそれが問題ということではなく、その方から上層部に声が届いてほしいという願いを込めての行動です。なので仮にサステナブルのことを知らなくても、彼らのせいではありません」

ファストファッションでなければサステナブル?

ファストファッションでなければサステナブルというイメージもあるけれど、その答えはNO。

実は現在、“売れ残った商品を新たに売る”というビジネスも展開されているんだとか。 一見、生産された商品を捨てることなく、人の手に渡るよう届けているように見えるけれど、冷静に考えてみると問題点も浮かんでくるという。

「今は余った在庫を買い取って、その商品を売ってる場所もあるようです。そのビジネスは、“在庫が余る前提”で成り立っているもの。ということは、在庫を減らそうという感覚がゼロに近いと感じています」

「“生産したものを捨てない=エコ”だと思っているのかもしれないですが、そもそも在庫が余らないようなビジネスを展開するべきだと思います」

もちろん在庫が余ってしまうこともあるので、そのときは再利用だったりリサイクルするのは大切。ただ在庫が余る前提で、たくさんのエネルギーを使ってまでも洋服を生産する必要があるのでしょうか――。

国内の若手デザイナーに目を向けて

また海外のサステナブルブランドを取り寄せると、輸送するためにCO2を排出し、結果的には地球を汚してしまうことに。根本さんによると、その点イタリアのファッション業界は、国内のデザイナーやブランドに興味を持ち始めているんだとか。

「イタリアの場合は、日本と違って地方に行っても置いてある洋服やお店が違うので、それが醍醐味になっています。セレクトショップも多くあり、これまではバイヤーが海外で買い付けていたものが中心になっていましたが、現在は国内で作られたものがメインになっているお店が多いようです」

もちろん日本にも才能のある若手デザイナーが多く存在し、新型コロナウイルスにより海外へ飛べなくなったバイヤーが、国内のブランドにも注目してきているそう。

「若手デザイナーのチャンスも増えてきていると聞きます。国内のデザイナーのアイテムを揃えたセレクトショップが増えたら面白いですよね。こういう時代を知ってるからこそ、それを逆手に取ったアイデアを活かしたお店が増えたらいいなと思います」

消費者の私たちが今すぐできること

洋服は気分が上がるものであるだけでなく、もちろん私たちの生活に必要なもの。毎日着るからこそ、しっかりと目を向けていきたいですよね。そこで、今すぐできるアクションを根本さんに聞いてみました。

ブランドに想いを語りかけてみる

「たとえば企業に対して、どのようにエネルギーを消費しているのか聞いてみるのも良いことです」と根本さん。このとき知っておいてほしいのは、“エネルギーを使っている=悪”ではないということ。

「エネルギーを使っていることを責めるのではなく、目標がなかったり、そこを対処しようとしていないのが一番の問題だと思います。エネルギーを使っているのは分かり切ったこと。だから消費者としてブランドに問うのは重要だと思います」

古着を選択肢のひとつに

フリマアプリもメジャーになってきた今、誰かが大事に着た洋服を手に入れるのもサステナブルな行動のひとつ。

「現在はネット上でのコミュニケーションが多いですが、昔のように実際に買い手と売り手が直接的に会える『フリーマーケット』が増えていっても面白いかなと思います」

相手の洋服に込められたストーリーを直に感じられるからこそ、そのアイテムを大事にしようという感情が芽生えることも。

また「家族から洋服を受け継ぐのもひとつの手です」と根本さん。

「私の母はおしゃれで、私に子どもや孫ができても着られるようなしっかりとした作りのものをたくさん持っていました。もし自分が今後洋服を買うとしたら、上質なものを選んで後世に残していくという楽しみもあるのかな。ストーリーがある洋服を持てたらいいなと思いますね」

根本さんによると、実際に海外のサステナブル業界では、“ストーリー性”というワードをよく耳にするんだとか。良いものを選んで買うことは、その洋服を大事にするきっかけになるはず。そして自分が大事にしてきたものが、他の誰かの元で輝いてくれたら洋服はもちろん、作り手側もうれしいですよね。

メンテナンスをする

リメイクと聞くとなんだかハードルが高いように感じるけれど、根本さんによると海外では“メンテナンス(お直し)”をする人が増えているんだそう。

「新しく何かクリエイトするのではなく、今の状態をより良く保つためにする方法です。洋服を長持ちさせる洗濯法は多くの人が試しているとは思いますが、メンテナンスも良いと思います。そうすることによって、きっと愛着も湧いてくるはずです」
 
Paola Giannoni//Getty Images

体形が変わったことで、クローゼットにあった洋服が着れなくなってしまうこともしばしば。けれどそこで手放すことを決意するのではなく、今の体型に合うようにメンテナンスするのも◎。

今持っているものを大事に着る

ファストファッションが問題視される今、実際にそのブランドのアイテムを大事に着ていても、そんな自分を少し後ろめたくなってしまうことも…。けれど、「たとえファストファッションのアイテムでも大切に着ることができれば、長く愛用できます」と根本さん。

実際に根本さんも、ファストファッションブランドで働いていたときに購入したアイテムを手放すのではなく、今でも大切に着ているんだとか。

ファストファッションのみならず、どんな洋服を選択するかは個人の自由。まずは今あるもの、そしてこれから手に入れるものを大事に着ていきたいですよね。

 
Oleh_photographer//Getty Images

最後に

最後に根本さんから、持続可能なファッションを実現するためにどう向き合っていくべきなのか聞いてみました。

手に取る洋服に“ストーリー”を持たせてほしい

どんな洋服を選んでいいか分からないというのであれば、“ストーリー”を持たせられる洋服を探してみましょう。せっかくなら周りの目を気にして買うのではなく、自分が納得したものを買うのがいいと思います。安いから、人気ブランドだからという理由で買ったとしても、それをすぐに捨てるようだったら何の意味もないですよね。

あとは誰かにあげられるような洋服を選んでみること。そうしたら、自分が着られなくなったときも売ることができます。何を着ていいか分からないなら、人にあげられるようなものというのを基準の一つにするのもいかもしれないですね。

私はとにかくファッションが大好きなんです。だからみなさんにもファッションを思いっきり楽しんでほしいという想いがあります。たとえば、どんなにサステナブルな素材であったとしても、実際に着てみて気分が上がらないものだったら意味がないですよね。

まずはファッションを楽しむ前提で洋服を選び、さらにその先に自分ができることがあるのか考えてみるのがいいかもしれません。


今回お話を伺ったのは…

根本亜希子さん/サステナブル・プロモーター

ファストファッションブランドでプレスマネージャーとして勤務したのち、フリーランスに転進。現在はサステナブル・プロモーターとして、PRやコンサルタントとして活動。

またファッションとサステナブルの分野において、海外での取り組みを現地でリサーチ。環境活動家として日本国内でも調査を行う。ミラノ・ファッション・ウィークにサステナブルPRとして、若手デザイナーのPRも担当。NPO気候危機対策ネットワークにも所属し、活動を広げている。