すべての性的な行為において、確認されるべき同意のことを指す「性的同意」。最近耳にするようになったという方も多いと思いますが、いざ自身の行動を振り返ってみるとどうでしょうか?

2021年3月、慶應義塾大学の学生が「性的同意ハンドブック」をオンライン上で公開。制作を務めた学生団体の『Safe Campus』に所属する佐保田さんと、一般社団法人『Voice Up Japan』慶應支部に所属する出井さんは、学内の性暴力事件などをきっかけに同プロジェクトをスタートさせたといいます。

今回は、性的同意ハンドブックを作ったきっかけや相手の意思を尊重することの重要性、これからの日本の性教育に望むことなど、さまざまなお話を伺いました。

お話を伺ったのは…

佐保田さん

慶應義塾大学理工学部機械工学科4年生。在学中に学内で起きた性暴力被害に問題意識を抱き、有志の学生と共に2019年11月「Safe Campus」の立ち上げに携わる。学内の性被害をなくすための調査や署名活動、行動する傍観者「アクティブバイスタンダー」の普及キャンペーンなどを実施。

出井さん

慶應義塾大学で社会学を専攻中。性暴力が相次ぐ一方で、それらの被害が「なかったこと」にされていく現状を問題視してSafe Campusに加入。

より多くの人に“性的同意”を知ってもらいたい

――性的同意ハンドブックを作ったきっかけを教えてください。

出井:関わっているのは全員慶応生なのですが、Safe CampusとVoice Up Japan慶應支部の共同で制作しました。元々Voice Up Japan内で「性的同意」をテーマに掲げようという動きがあり、最初に上がったのが「入学オリエンテーションで性的同意について取り上げたい」ということでした。

ちょうどコロナ禍に入って入学オリエンテーションが開催されるか危うい頃だったので、オンラインで出来ることはないかなと考えたのが、性的同意ハンドブックを作ったきっかけです。私はもともとVoice Up Japanに所属していて、そのなかで共同で何かできないかと制作をスタートしました。

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――なぜ性的同意について広めたいと思ったのでしょうか?

佐保田:私の在学中にミスター慶應の性暴力事件が起き、その後には学内での盗撮被害もありました。けれどこういった事件に対し、大学や学生のなかでわかりやすく対策が講じられたようには感じることができなかったんです。ただ個人の事件として面白がられて終わっているような感じで。

そんななかで、大学の風土を少しずつ変えていきたいなという想いがありました。

――性的同意ハンドブックを制作する前と後で、周りの意識は変わったと思いますか?

出井:学生生活はオンラインが大半なので、なかなか変化は体感しづらいです。ですが性的同意ハンドブックは、オンライン上で誰でも見られるようになっているので、別の大学に通う友人が「読んだよ」と声をかけてくれたこともありました。

その友人は普段からこういった分野にものすごく興味があるわけではないのですが、ただ“友人が作ったから”という理由で読んでくれたんです。たとえば、大人が作って「読みなさい」と押し付けるよりかは、身近に感じやすい学生が作ったものの方が伝わりやすかったのかなと思います。

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Anastasiia Zvonary//Getty Images

佐保田:私は理工学部なのですが、性に関する話を“エロコンテンツ”としてしか見ることができない人は多いなと感じています。事件が起きても「まただ」「性犯罪大学だ」とネットのミームのように笑いにする人が多い。伝わっている相手とそうじゃない相手がいるのが正直なところであり、とても残念です。

大学側からは「ハンドブック制作を受けて、大学としてはこうします」などの回答のような対応はなかったものの、大学の制作するパンフレット等に「性的同意」という言葉が載るようになりました。

その他の変化でいうと、一年ほど前から学内で生理用品を無料配布するプロジェクトが進んでいたようです。動画広告を見ると、生理用品がもらえるというサービスで、少しずつ女性の性に関する話題が、見えやすい形になってきたように思いますね。

お互いがNOを言えるような関係であって欲しい

――実際に性的同意を取るとき、どんな言葉がけをしたら良いと思いますか?

佐保田:なかなか答えづらいですが、同意の取り方は人それぞれかなと思います。全部が全部マニュアルのようにはならないし、ハンドブックにも「こうしましょう」とステップを書いてはいません。まずは相手が嫌がっていないか、一歩引いて考えてみて欲しいです。

周りの声を聞いていると、「NOと思っていたけど言えなかった」という方が多くあります。本当はあのとき嫌だと思っていたけど、「まあ、いいよ」と言ってしまったと。後から思い返して「あれは性的同意が取れていなかったんだな」と気付いたという友人もいました。

NOと言えない人が悪いのではなく、“お互いがNOを言えるような関係”であって欲しいなと思います。

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Anastasiia Zvonary//Getty Images

――パートナー間では、どのように性的同意を取れば良いと思いますか?

佐保田:私だったら多分、「良い?」という感じで相手に聞くと思いますね。逆に相手に、“付き合ってるからそういうものでしょ”と来られたら、「今日は嫌だ」「当たり前のことではないんだよ」と伝えると思います。

出井:性的同意ハンドブックを公開してから友人に言われるのは、「付き合っている関係では、セックスなどの性的接触を断りにくい」という声です。それに対し理想論を押し付けるのは、私は現実的ではないと思っていて。 

返事がYESであれNOであれ、そもそも性的同意を知っている人と知らない人とでは受け取り方にも差があります。相手が知らない場合、NOと言っても「嫌よ嫌よも好きのうち」と取られてしまうことも。まずは「性的同意があるんだよ」という話をしたいです。

――パートナー間で性的同意について同じくらいの知識を持っておく必要がありますね。では性的同意について知らない人と出会ったとき、どのようなアプローチをすれば良いと思いますか?

佐保田:たとえば食事の場や飲み会で誰かが自分の性経験を話したとき、そのエピソードが明らかに性的同意の取れていないものだったとします。私がそういう場面に居合わせたら「今の話だけどさ、相手はそれでよかったのかな?逆に自分だったらどう思うの?」と聞き、自分の行動を振り返ってもらうようにアプローチしますね。気付いてもらいたいなという想いで。

あとはInstagramで「ハンドブック作ったんだよ」とポストしたり。そうすると大体300~400人が見てくれます。興味のない人でも、「そういうのあるんだ」「最近よく聞くな」くらいには思ってくれるんじゃないかなという希望を持ってます。

出井:性的同意を無視する行為に対して、個人レベルで「絶対に反対しましょう」と強制は出来ないし、難しいことだと思うんです。個人の言動に任せるよりは、社会的なアプローチや制度を変えるための活動をすること、認識を広めてそれに賛同してくれる人を増やすのが、一番良いんじゃないかなと思います。

たとえば権力関係にある先生と生徒、上司と部下だともっとアプロ―チはしづらくなります。もし相手が逆上したり、性的同意を無視する行為をしたりして危険を感じたときは、自分の身を守ることが一番。だから逃げる・避けるという行動でもいいと思います。

性教育=“恥ずかしいもの”ではない

――今の日本の性教育は不十分だと思います。性的同意以外でどんな性教育が必要だと思いますか?

佐保田:ユネスコやWHOなどが共同で出している「国際セクシュアリティ教育ガイダンス」があるので、私はそれに準拠すべきだと思います。あとは段階に合った性教育があったら良かったなと思います。

「相手を大事にしよう」や「勝手に人の身体に触らない」こと、プライベートゾーンについても年少の頃から話して欲しかったなと。

他にもアメリカでは大学入学時に、大学側が性暴力に関するガイダンスを開催しなければならないという法律もあります。「性暴力とは何か」や「もし被害を受けたらどこに相談できるか」の情報提供もあり、「加害者でも被害者でもない、第三者として出来ること」についても教えてくれるそうです。

出井:私も5Dのことは推してほしいです。第三者になる可能性が一番高いので、重要だと思います。

5Dとは?

Distract:注意をそらす、Delegate: 第三者に助けを求める、Document: 証拠を残す、Delay: あとで対応してみる、Direct: 直接介入する。

――ご自身の小中高時代を振り返ってみて、性教育の授業はどうでしたか?

出井:振り返ってみると、保健の授業ってすごく眠かったなぁって(笑)。教科書も棒読みみたいな。それをみんなシーンと聞きながら、一部がクスクス笑ってる。今よりも、“性を語ること”がタブー視されていたからだと思います。

だから先生たちはのっぺりしたことしか言わないし、子どもたちはタブー視されている反動として笑ったり、アダルトビデオから知識を得るのに楽しみを覚えていたと思います。

一方で海外では、コンドームの付け方を習う授業があると聞いたことも。うまく生徒に教えられないのであれば、外部の専門家を呼ぶのも一つの手だと思うんです。少なくとも教科書を棒読みして“恥ずかしいもの”という意識を持たせるような形で終わらせるのは、そろそろ終わりにすべきかなと思います。

――学校以外でも、身近に性の悩みを相談できる相手がいたらいいですよね。

佐保田:本当にそう思います。中高生だと一人で産婦人科って、怖くてなかなか行きづらいと思いますし。

スウェーデンには「ユースクリニック」という場所があって、無料で行けるんです。モーニングアフターピルももらえたりとか。国内でもそういった取り組みをする産婦人科は増えているらしいのですが、学校以外でのサポート体制も広がればいいなと。

――もともと性教育に興味がなかったというお二人ですが、大学生になりVoice Up JapanやSafe Campusに入られたきっかけは?

佐保田:2019年の結成時から私は在籍していて、そのとき学内での盗撮被害が複数起きたんです。その事件自体もすごく衝撃的でしたが、周りの男子学生などが事件を“面白いもの”として消費した会話をしていました。

そんな会話を真横で聞いていた私は、すごくショックで…。「これはダメなことだ」と線引きくらいは出来るはずだと思っていたのに、そこまで問題だと思っていないのかと。それから何か出来ることはないかと活動を始めました。

出井:私は高校生のとき、フェミニズムをテーマにした小説を読んだことをきっかけに団体に入りました。日頃から性やジェンダーに関してモヤモヤした経験が、フェミニズムやジェンダーに関する話と結び付いたのが大きいです。

実は社会的な問題とつながっていると知ったので、大学に入ったら何か出来ないかなと活動を始めました。

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“知らなかった”で終わらせないために

――最後に性的同意が私たちにとっていかに大切なものであるか、メッセージをお願いします

出井:性的同意を知らない人が、一番加害者になりやすいと思っています。自分が傷ついたり、誰かを傷つけてしまったり…、知らないままでいるとそんな事実に気付かずに過ごすことになってしまいます。だからこそ一人でも多くの人に知ってほしいです。

佐保田:知らぬ間に相手を傷つけること”って多いと思います。性的同意という概念を知らないと、悪いことをしている・人を傷つけている感覚がないまま、当たり前のこととして他人に性的接触を強要してしまう場合もあります。

そういった場合に性暴力被害が生まれてしまうので、性的同意はとても大事なことです。私自身も学んでいくなかで、「相手が嫌がることをしていないかな」と自分の行動を振り返ったりしましたし、これは他の色んな話にも通じ得る考え方だと思います。だから私は、性的同意について知ることが出来てすごく良かったなと思っています――。


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