気候変動によって引き起こされる森林火災や熱波、洪水、干ばつなどの異常気象…。日本に住んでいると、それらの報道を見るだけでなく、実際にその被害や影響を受けることも増えたと感じる人も多いのではないでしょうか。

これまでにはなかったような異常気象が“当たり前”になりつつある昨今、環境の変化により住む場所を追われる人は世界中で急激中。こうした人々は「気候難民」と呼ばれ、2050年までに2億人に達すると世界銀行は予測しています。

ここではそんな「気候難民」について、Media is Hopeの名取由佳さんが解説します。

【INDEX】


「気候難民(Climate refugee)」とは?

まず難民とは、「人種、宗教、国籍、政治的意見やまたは特定の社会集団に属するなどの理由で、自国にいると迫害を受けるかあるいは迫害を受けるおそれがあるために他国に逃れた」人々と定義されています。

一方、「気候難民(Climate refugee)」は増大する気象災害によって住む家や生計手段を奪われた人々のこと国際法のもとで「気候難民」の定義は存在しませんが、地球温暖化による異常気象が原因で住む場所を失う人が増加したことを背景に、この言葉が用いられるようになりました。

紛争難民よりも多い「気候難民」

スイスに本部を構える国内避難民監視センター(IDMC)によると、2022年の世界の避難民の数は、過去最多だったのこと。

  • 紛争が原因の避難民は2830万人で過去10年の平均の3倍
  • 洪水や干ばつなど自然災害による避難民は3260万人

これはウクライナに対するロシアの軍事侵攻の影響もあって全体的な増加率が高いと言えますが、それでも気候変動によって住む場所を失う人の方が多い現状なのです。

「気候難民」を生む例

異常気象による地域の変化というと、「海面が上昇することで、島国などが水没してしまう」恐れをまず思い浮かべるかもしれません。しかし実際は、複合的にさまざまな要因が移動を強いる要因となっています。

  • 砂漠化による食糧や水などの資源の喪失
  • 海面の上昇による地域の水没
  • ハリケーンや洪水などの異常気象が頻発
  • 限られた土地や資源をめぐる対立

たとえばホンジェラスでは2021年、二つのハリケーンが地域を直撃。被災者の多くはシェルターに移動することに。2022年にパキスタンでは640万人が避難を強いられた大規模な洪水被害も。

パキスタンは、これまで食糧危機が悪化により故郷を追われる130万人のアフガン難民を受け入れていることでも知られています。

日本に住む人も「難民」になる日が来る?

このまま気候変動が進めば、日本に住んでいても移動を余儀なくされる可能性があります。事前に知識を持ち、住む場所を選んでいく必要があるかもしれません。

温室効果ガスの排出削減、異常気象による災害予測、難民の受け入れ…。気候難民の増加を抑えるため、国際社会が協力して取り組むべき課題は多いでしょう。

国際社会の対策に向けた動き

増えつづける気候難民に対しての対策は、 あまり進んでいないことが一番の課題。そもそも「難民」として認定できない場合もあるため、まずは気候災害や気候変動によって移動を強いられた人々を難民として認めることが求められています。

中でも具体的な動きがあったのは、バングラデシュなど。同国は洪水など、気候変動の深刻な影響をうけやすい国のひとつですが、バングラデシュ政府は堤防や排水システムを整えて防災機能を確保しながら、移住者が働ける工場も建設。居住をしつづけられる地域を整えたというもあるのです。


解決に貢献する!?「砂漠緑化プロジェクト」

地域の砂漠化が進むことで、食料や水のインフラ、洪水などが進むことが気候難民を生む大きな要因として知られています。そして 日本国内で、砂漠地帯での気候難民を減らすための取り組みに向けて動き出している事例も。

それは、株式会社TERRAおよび市民エネルギーちばの代表取締役・東光弘さんによる砂漠地帯の緑化プロジェクト。 ソーラーシェアリング(農業をしながら太陽光発電を行う設備)を有効活用した、砂漠緑化プロジェクトをけん引しています。

世界の電力が砂漠で作られる⁉

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Carol Yepes//Getty Images

その仕組みとはまず、岩石砂漠の下草の上にソーラーシェアリングを設置し電気を発電。ここで発電した電気を利用して、特殊な装置で大気中から水分を採取。取り込んだ水分から水を生み出し、緑を育てていくというものです。

温暖化が進むと地中の水分がより蒸発し、植物が育ちにくい状態に陥るというのも、「気候難民」を生む複合的な原因のひとつソーラーシェアリングで影ができることで、それを防げると期待されています。

東さんによると、植物から蒸発する水が一番雨を生みやすいとのこと。うまく緑化が進めば、ソーラーシェアリングで育った植物から雨が降り、さらに新たな植物が育つ…といったよい水循環が生まれることにも期待が!

また、実は砂漠は太陽光発電に非常に適した土地。長時間直射日光に照らされるため、他の土地に比べ多くの電気が生み出すことができます。東さんによれば、サハラ砂漠の10%の面積が太陽光パネルになれば、世界の電力を賄うこともできるのだとか!

「資源がない砂漠」のイメージを変える

「世界の紛争地域は砂漠地帯であることが多い」と話す東さん。砂漠では資源がないために奪い合いが起こり、紛争が発生しやすいのだそうです。緑化プロジェクトは、砂漠地帯の有り余る土地と強烈な太陽光を「資源」としてとらえる“発想転換のプロジェクト”。

「砂漠地帯を緑化し、温暖化を防ぎつつ水資源や食料に困らない地域にしていくことはもちろんだが、水素をつくり出し、それを日本へ輸出するなど経済成長にも貢献したい」

イノベーションを起こしていくにはこれまでの当たり前に囚われないこと。そしてテクノロジーも、100%過信しないこと。慎重に進めていく姿勢が大切です。

ソーラーシェアリングの国内普及にも力を入れている東さん。日本のエネルギーを100%自然エネルギーに変えていくことも目標としていますが、地球規模で大きなインパクトがある砂漠の緑化も同時に進めていきたいと話します。

「市民エネルギーちば」代表取締役:東 光弘さん

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Media is Hope
1965年東京生まれ。20年ほど有機農産物・エコ雑貨の流通を通じて環境問題の普及に取組み、2011年より地域再生型の再エネ活動に専念。ソーラーシェアリング特化した自社発電所事業(約3MW)および、EPC事業、専用部品開発、講演活動、各種環境プロデュース等を務める。2021年5月、海外事業や異業種との協業のため新会社『㈱TERRA』設立。農地取得適格法人2社の役員を務めながらオーガニックな6次化と農泊事業なども手掛ける。

解説:一般社団法人 Media is Hope 共同代表  名取由佳

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Media is Hope:気候変動の正しい知識と解決策を日本の共通認識にするため、メディアの支援やサポートを行い、気候変動解決に向けてあらゆるステークホルダーが共創関係を築くための架け橋となる団体。 2021年に設立。